第八話 行け行けドンドンの始まり会社の歴史を作っちゃえ 実績がないと取次口座を開設してもらえない。 昔も今も同じです。 こんなとき、一瞬にして悪知恵が浮かぶのが私です。 それに、たぶん出版取次の反応ってそんなものだろうと覚悟していました。 まずは会社を作ったとき、○○書房っていかにも古そうな社名にしました。 会社創立後2ヶ月ぐらいでも、この社名を印刷した名刺は効果を発揮しました。 名前が一人歩きしてくれるのです。 「知っていますよ。老舗じゃないですか」 「いい本出しておられますよね。私も買ったことがありますよ」 社歴1~2ヶ月。自社出版物ゼロの時期での話です。 「えー、まー。地道にやっています」 「そうですか。ありがとうございます。ぜひまた買ってやって下さい」 我ながら、なかなかの役者ぶりです。 どうせなら出版点数を増やしてしまおう 大して資金もなくて始めた会社です。 二点も本を出せば財布は空っぽです。 「この本、分けちゃおうよ」 突然、ひらめきました。 よし、これで行こうって。 200頁ぐらいの本として準備してきたものを、三冊の本に分冊です。 1冊の本を作る費用で、最低2冊の本が出来上がります。 実績を作るには、まず出版点数です。 もう一つ別な要素も念頭にありました。 「ブックレット・シリーズ」と名付けました。 当時、ムックという言葉が出来ていました。 マガジン・ブックの略称です。 「いいよ、うちはパンフレット・ブックだよ」 「パンクじゃヘンだからブックレットにしようよ」 またまた私の造語です。 この言葉も一人歩きを始めました。 この頃、他にもいろんな言葉を作りました。 今でも結構通用しています。 エッヘン。今じゃみんなブックレットって言っているよ 「ビックリしたよ。まさか○ちゃんが作った言葉だと思わなかった」 ブックレットシリーズが出始めて半年後、大手の出版社から電話が入りました。 「うちで出す時事問題の小冊子のシリーズ名を考えていたんだ」 「本屋で見かけて、これだって思ったんだ。うちの企画にピッタリだよ」 「使わせてもらいたいんだ、ブックレットの名前。どうかな?」 「別にいいよ。商標登録したわけじゃないから、自由に使ってよ」 このころになって、ようやく出版取次の口座が取れました。 その決め手になったのが、このブックレットシリーズです。 この本のもう一つの要素です。 定価が安く設定できるのです。 今度私が出した本と同じでカバーも付けていません。 経費削減です。 最初はスキー関係の本です。 チューンナップの本です。 「ワクシング」「エッジング」など工程別にそれぞれ80頁にまとめました。 神保町を狙え でもまだ取次口座はありません。 「神保町と新宿だよ、重点は。一点突破、全面展開だよ」 本屋さんとの直接取引きです。 スキー用品店の多い場所を狙いました。 予想どおりです。 三省堂神田本店のベストテン入りです。 それも実用書部門の1位から3位まで独占です。 3点しか出版物がなかったので、それ以上はムリでした。 なぜそれが可能だったか? 過去のデーターでスキー書の売れる本屋さんを全て把握していたのです。 それぞれの書店担当者も、以前から私と面識がありました。 さらにもう一点、定価が安かったこともあります。 ちょっと考えれば分かると思いますが、ベストテンは売上げ冊数です。 売上げ金額ではありません。 私の頭にひらめいたのは実はこのことでした。 すぐに本屋さん向けの注文書を作りました。 三省堂書店売上げランキング1~3位独占と大きく書きました。 その注文書をもって手当たり次第、本屋さん回りです。 「済みません。まだ取次口座が開かれていないんです」 「開設されたらすぐ納品しますからお願いしま~す」 うづ高く積みあがるほど注文書が溜まりました。 さて、出版取次との戦闘再開です 出来たばかりの出版社であることは変わりません。 でも既に出版点数は5点です。 実績です。 三省堂の売上げランキングも独占です。 これも実績です。 それにも増して取次担当者がショックを受けたのは注文書の山です。 これでは口座を開設しないと、本屋さんのクレームが取次へ殺到します。 「これじゃ脅迫ですよ。勘弁して下さいよ。やり過ぎですよ」 いろいろ言われましたが、急きょ3日後には口座が開設されました。 「こんなやり方、絶対教えないで下さいよ。たまったもんじゃない」 さんざん文句は言われましたが担当者の目は笑っていました。 ジャンル別一覧
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